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2022年11月以来1年振りのグラフィックボード価格の再調査を行った。一時話題に挙がることの多かったグラフィックボードの価格高騰状況について気になっている方は多いだろう。実は2022年の夏頃にはグラフィックボードの価格は下がってきていた。ヨーロッパでも2022年5月頃にはほとんど定価まで販売価格が下落(TECHSPOT, 2022)していたようだ。

当サイトでも価格を追ってきていて、記事の執筆時点で完全にグラフィックボードの価格高騰は落ち着いていると考えてよい。むしろ定価よりも安く購入できる時期だ。現行のGeForce RTX 40シリーズやRadeon RX 7000シリーズについてはリリース時点で妥当な価格設定となっているためここでは触れない。旧世代のGeForce RTX 30シリーズやRadeon RX 6000シリーズを中心に見ていく。

各グラフィックボードの在庫・価格まとめ【2023年11月】

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ざっとトレンドを見ても下落していることがわかる。昨年2022年11月と比較すると10%~20%下落している状況だ。もっとも高騰していた2年前と比べると最大で45%程度も価格が下がっている。上位モデルの方が下落幅が大きい。
製品名国内定価(MSRP)2023/112022/112022/082022/062022/012021/11
RTX 3090229,800円($1,499)217,110円~179,219円~178,000円~207,064円~280,000円~310,000円~
RTX 3080 Ti175,800円($1,199)119,800円~145,800円~136,800円~151,690円~180,000円~192,000円~
RTX 3080 10GB109,800円($699)82,800円~109,800円~103,800円~120,800円~140,000円~153,000円~
RTX 3070 Ti89,980円($599)68,211円~78,980円~79,499円~85,800円~110,000円~127,000円~
RTX 307079,980円($499)57,800円~73,800円~73,800円~77,779円~105,000円~110,000円~
RTX 3060 Ti59,980円($399)54,800円~57,979円~64,800円~69,800円~84,000円~84,000円~
RTX 306049,980円($329)37,980円~46,280円~46,780円~51,980円~72,000円~66,000円~
GTX 1660 Ti39,980円($279)39,800円~32,480円~33,480円~34,800円~51,000円~58,000円~
GTX 1660 SUPER27,990円($229)24,805円~26,800円~26,980円~32,800円~58,000円~56,000円~
GTX 166032,980円($219)-25,800円~31,980円~32,303円~40,000円~56,000円~
GTX 165021,780円($149)17,600円~19,800円~22,261円~26,950円~27,500円~29,000円~
GTX 1050 Ti18,980円($139)16,980円~18,980円~19,800円~20,980円~22,000円~23,000円~
RX 6950 XT142,780円($1,099)131,424円~145,000円~178,000円~189,970円~--
RX 6900 XT142,780円($999)109,980円~130,000円~133,444円~151,517円~170,000円~180,000円~
RX 6800 XT89,980円($649)87,580円~92,800円~95,800円~122,482円~140,000円~155,000円~
RX 680079,980円($579)82,467円~78,000円~99,800円~113,300円~137,500円~190,000円~
RX 6750 XT101,200円($549)54,980円~49,800円~79,800円~87,088円~--
RX 6700 XT74,980円($479)47,617円~54,800円~59,800円~73,980円~92,000円~110,000円~
RX 6650 XT65,800円($399)35,800円~43,779円~54,764円~64,310円~--
RX 6600 XT59,980円($379)31,800円~39,800円~45,800円~52,680円~62,700円~70,000円~
RX 660054,980円($329)28,980円~32,800円~34,800円~41,580円~55,000円~65,000円~
すでにどのモデルも国内定価よりも価格が下がっている。赤文字のモデルについては価格が高くなっている。これは次世代モデルへの切り替わり時期ということもあって在庫が少ないからだ。正当な相場とは言えない。グラフィックボード価格の高騰は終焉だ。

ただし、円安やインフレの影響でゲーミングPCの価格は上昇傾向にある。グラフィックボード以外のコストが増加しているということだろう。マウスコンピューターが発表した資料でもゲーミングPCの価格が上昇傾向にあることが示されている。「ゲーミングPCの相場を徹底調査」でトレンドを追っているので合わせて参考にしていただければと思う。

価格下落の要因はマイニング需要が激減したこと

2022年5月以降価格が下落しているのは、マイニング需要が激減したことが要因だと言えるだろう。マイニング需要の減速は、純粋に仮想通貨の価格が下がりマイニングでの収益性が低下したことによるものだ。グラフィックボードの価格と相関関係があると言われているイーサリアムの価格も下降トレンドとなっている。イーサリアムの価格が下がっているのでグラフィックボードの価格も下がっていると捉えることもできる。

また、ASUSTeK Computerの共同CEOであるS.Y.Hsu氏(マイナビニュース, 2022)によると、「このマイニング需要が激減はPoS(Proof of Stake)を採用する暗号資産のトレンドによるものだ。」と述べている。つまり、ハードウェア(グラフィックボード)に頼ってごりごり計算をして報酬を得るトレンドから、暗号資産の保有量及び年数で報酬を得るトレンドに移り変わったということになる。高性能なグラフィックボードを購入するメリットが薄れてしまったのだ。なお、イーサリアムもこのPoSへの移行を進めている。

グラフィックボードの供給側であるNVIDIAもグラフィックボードの供給不足への対策としてLHR版GPUをリリースした。これは仮想通貨マイニングのパフォーマンス(ハッシュレート)を意図的に落としたモデルだ。グラフィックボードがマイナー向けではなく、ゲーマー向けであるという意思表示でもある。その他グラフィックボードの供給を安定させるためにRTX 2060やGTX 1050 Tiなどの旧モデルを復活させたことも挙げられる。これらの施策も功を奏したと言えるかもしれない。

イーサリアム

ethereumchart出典:(bitFlyer, 2022)

イーサリアムの価格は2021年11月をピークに現在に掛けて大きく価格が下落している。価格が下がったことでマイニング収益が下がりマイニング需要が減速したということだ。また、PoSへの移行もあって今後も需要が極端に大きくなる可能性は低いのではないかと思う。

2021年夏までのグラフィックボード市場について

品薄状態で購入したくても購入できない

rtx3080urikire出典:(パソコン工房, 2021)

パーツショップを見るとすぐにわかると思うが、グラフィックボードを購入したくても在庫がなくて購入できない状態が続いている。特にGeForce RTX 3080・GeForce RTX 3060 Ti・Radeon RX 6900 XT・Radeon RX 6800 XTなどが入手困難だ。在庫を見つけたらすぐに購入した方がよいだろう。

パーツショップも厳しい

ワンズの在庫状況を見てもRTX 3090の次はGTX 1050 Tiとなっている。BTOメーカーあるいはPCパーツショップからしてもありえないことのはずだ。それほどイレギュラーなことが起きてしまった。間のモデルがすっぽりと抜けていてこれはまさに異例だと言える。

在庫があっても価格高騰中

rtx3070kakakusui出典:(価格.com, 2021)

グラフィックボードの在庫があっても価格が跳ね上がっている。なかなか手を出しづらいというのが本音だ。例えば、ゲーマーに人気の高いRTX 3070は発売時の価格が82,485円だったものが、2021年2月23日時点で118,572円と40%以上も値上がりしている。グラフィックボードなど半導体の高騰は度々起こる。2018年1月頃にも同じようにグラフィックボードの価格が高騰していた。色々な要因が重なって供給不足に陥るということが言える。

今回のグラフィックボードの価格高騰は、トランプ政権が終了したことによる影響もあるのではないかと思う。(HUFFPOST, 2021)グラフィックボードやマザーボードなどのパソコン関連製品で優遇されていた中国への関税の完全除外が終了となった。これによって定価が高くなっているのだ。新型コロナウイルスに関連するオペレーティングコストの上昇も要因となり得ます。

グラフィックボードの供給が不足している理由

グラフィックボードの価格が高騰しているのは供給が不足しているためだ。ではどうして供給不足に陥っているのかを見ていくとしよう。

元々グラボの供給が安定していなかった

まず元々それほどグラフィックボードの供給が安定しているとは言えない状況だった。これは新型コロナによって半導体の生産を抑えたことによる世界的な半導体不足が原因(WEDGE Infinity, 2021)だ。まずは自動車業界がその影響をもろに受けた。そのつけが今になってグラフィックボード業界にも来ていると考えられる。スマートフォンやノートパソコンなどの需要が爆発したことも半導体不足に拍車をかけている状況だ。

自宅にいる時間が長くなったこともあってゲーミングPCの需要がずっと大きかった影響もあるだろう。そこに中国の旧正月やマイニング需要の急増などの要因が重なって深刻な供給不足になっているのだ。半導体の生産に対しての投資を増やしているが、供給が安定するまでしばらく時間が掛かりそうだ。

また、グラフィックボードは高性能になればなるほどダイサイズが大きくなり、より多くのシリコンウェハー(素材)が必要になる。製造できるグラフィックボードの数を増やしにくい状況だったと言えるかもしれない。Ampere世代のグラフィックボードでは前世代のRTX 20シリーズより大幅に性能が引き上げられている。ダイサイズも大きくなっているので当然だ。

マイニング需要の急増

bitcoin出典:(bitFlyer, 2021)

マイニング需要の急増によってグラフィックボードの需要が高くなり供給不足になってしまった。ビットコインの価格推移を見るとわかるが、2020年の年末頃から急激に価格が上昇している。当然価格が上がればマイニングでの利益を出しやすくなるので、高性能なグラフィックボードの需要が高まることになる。

中国の旧正月による工場の稼働停止

kyusyougatsu出典:(HUFFPOST, 2021)

供給が不安定な状況に中国の旧正月が重なってしまった。グラフィックボードの製造過程において中国は重要な役割を果たしている。その中国が旧正月で休暇になってしまうと工場の稼働が止まってしまう。通常旧正月は前後7日間の大型連休となる。日本人の正月と同じイメージだ。

グラフィックボードの供給不足に対するNVIDIAの対策

当然NVIDIAもグラフィックボードの供給不足に対して様々な対策を実施している。現時点ではそれほど効果があるようには思えないのが残念なところだ。それでもRTX 3070やRTX 3080でもマイニング性能を意図的に落とすということなので今後もう少し改善してくるかもしれない。

GeForce GTX 1050 Ti/ RTX 2060の再発売

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NVIDIAは、旧モデルであるGTX 1050 Ti及びRTX 2060を復活(PCWorld, 2021)させている。これは異例の措置で過去を振り返っても例を見ない。それほどグラフィックボードの供給不足が深刻でNVIDIA側も事の重大性を理解しているということだ。

NVIDIAがGPUメモリ容量が小さいグラフィックボードを選んだのはマイニング用途での購入をさせないためだと考えられる。2021年5月時点でRTX 2060の在庫がやや増えているように思う。RTX 2060の価格は高騰前の2倍近い70,000円前後となっている。後継モデルのRTX 3060が100,000円以上となっているので選択肢として悪くないと思う。ミドルクラスをカバーできるのは嬉しいところだ。

GeForce RTX 3060の発売

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2021年2月25日Ampere世代の60番台の本命であるRTX 3060のリリースを予定(PCGAMER, 2021)している。このリリースによって多少グラフィックボードの需要をカバーできるのではないかと思う。いつの時代でも60番台のグラフィックボードはゲーマーに人気がある。このRTX 3060を待ちわびている方も多いだろう。

性能的にはやや期待はずれ感はあるが、ミドルクラスのグラフィックボードとして十分だ。RTX 2060 SUPERよりも性能が高くレイトレーシング性能についても引き上げられている。今は登場したばかりということもあって価格は高めだ。価格が落ち着くことがあればRTX 30シリーズで最も売れる可能性がある。今後在庫切れになってしまう可能性も否定できないが…

RTX 3060のマイニング性能を落とす

もちろんRTX 3060も仮想通貨のマイニングを考えている方が狙うことが想定されている。もしそのような方が手にしてしまうと他のRTX 30シリーズと同様にすぐに在庫切れになる可能性が高いだろう。その対策としてNVIDIAはRTX 3060のマイニング性能を意図的に落とす(PCMag, 2021)ということだ。

結果的にゲーマーの手に渡りやすくなるということに繋がる。RTX 30シリーズはゲーマーをターゲットにしたグラフィックボードなので当然の対策だと思う。他のRTX 30シリーズに適用されないのがもどかしいところだ。2021年5月にNVIDIAがRTX 3080・RTX 3070・RTX 3060 Tiにもマイニング制限を加えるということを発表(NVIDIA, 2021)した。ハッシュレートを意図的に半減させるようだ。

グラフィックボードの高騰はいつまで続くのか予想

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正直現時点でいつまでグラフィックボードの高騰が続くかはわからない。新型コロナ感染症の第6波が来ていることもあって今後さらに厳しくなってしまう可能性もあるのだ。不要の外出を控えるということでゲームをする時間は増えるだろう。結果的にミドルクラス以上のグラフィックボードを必要とされる方は多いと思うし、仮想通貨バブルによってまた需要が急増する可能性もある。

RTX 2060やRTX 2070 SUPERなどの販売でも落ち着くことはなかった。当面の需要をRTX 3060でカバーできれば2021年3月の終わりか4月には落ち着くのではないかというのが楽観的な見方だった。ところが、2022年1月になっても価格が下がらず2022年の間も高騰が継続することは間違いないだろう。今すぐ購入する必要がない方は数ヶ月様子を見てもよいと思う。半導体不足による影響は車産業にも影響を与えている。自動車専門調査機関のLMCオートモーティブによると「2022年には生産と在庫が回復し、2023年には通常に近づく、との見方を示している」(JETRO, 2021)ということだ。まだまだグラフィックボード価格が下がることはないだろう。

2022年11月時点ではグラフィックボードの価格高騰も落ち着き定価と同等になった。円安の影響を受けているとは言ってもグラフィックボードだけを見れば通常価格に戻っていると結論付けてよいだろう。2023年11月になって定価を下回るモデルがほとんどで価格は正常になっている。BTOパソコンの価格が高いのは円安による材料費高騰による影響だと考えられる。ゲーミングPC市場にはなかなかよい風が吹かないのがもどかしい。それでもグラフィックボードの価格が下がっているのは嬉しいニュースだ。

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