Ryzen AI 7 350の性能比較&ベンチマーク検証を行っていく。Zen 5アーキテクチャを採用した最新のモデルだ。製品名の”AI”が示す通りAI性能(NPU)に力を入れているのがハイライトだ。Microsoft社が指定するCopilot+の要件を満たしAI処理を効率的に行える。立場的にはZen 4のRyzen 7 8845HSの後継モデルとなる。スペックは8コア16スレッドと共通だが、省電力性の高いZen 5cコアを搭載していて進化を感じられる。ゲーミングノートPCだけではなくビジネスPCにも搭載される。
Ryzen AI 7 350の概要
コードネーム | Zen 5 |
---|---|
プロセス | 4nm |
コア/スレッド数 | 8コア(4 Zen 5コア+4 Zen 5cコア)/ 16スレッド |
Zen 5コア定格/最大クロック | 2.0 GHz/ 5.0 GHz |
Zen 5c定格/最大クロック | 2.0 GHz/ 3.5 GHz |
L2キャッシュ | 8MB |
L3キャッシュ | 16MB |
内蔵GPU | Radeon 860M |
PBP | 28W |
MTP | 54W |
発売日 | 2025年01月06日 |
価格 | – |
特徴 (長所・短所) |
(+) 8コア16スレッドの高性能モデル (+) TDPが低く軽量ゲーミングノートPCにぴったり (+) Capilot+のシステム要件を満たす (-) 従来のRyzen 7 8845HSと同程度の性能に留まる (-) 消費電力がやや高い (-) 搭載ゲーミングノートPCのラインナップは少なめ |
評価 |
・総合評価 7.0 ・ゲーム評価 7.0 |
Ryzen AI 7 350の基本スペック
Ryzen AI 7 350 | Ryzen AI 9 365 | Ryzen 7 8845HS | |
---|---|---|---|
コードネーム | Zen 5(Krackan Point) | Zen 5(Strix Point) | Zen 4(Hawk Point) |
プロセス | 4nm | 4nm | 4nm |
ダイサイズ | 195m㎡ | 233m㎡ | 178m㎡ |
トータルコア(スレッド) | 8(4 Zen 5+4 Zen 5c)/ 16 | 10(4 Zen 5+6 Zen 5c)/ 20 | 8 / 16 |
定格クロック(Zen 5) | 2.0GHz | 2.0GHz | 3.8GHz |
最大クロック(Zen 5) | 5.0GHz | 5.0GHz | 5.1GHz |
定格クロック(Zen 5c) | 2.0GHz | 2.0GHz | 非搭載 |
最大クロック(Zen 5c) | 3.5GHz | 3.3GHz | 非搭載 |
オーバークロック | 非対応 | 非対応 | 非対応 |
L2キャッシュ | 8MB | 10MB | 8MB |
L3キャッシュ | 16MB | 24MB | 16MB |
対応メモリ | DDR5-5600 LPDDR5X-8000 |
DDR5-5600 LPDDR5X-8000 |
DDR5-5600 LPDDR5X-7500 |
内蔵グラフィックス | Radeon 860M | Radeon 880M | Radeon 780M |
実行ユニット | 8 | 12 | 12 |
グラフィックス周波数 | 3.00GHz | 2.90GHz | 2.70GHz |
NPU | 50 TOPS | 50 TOPS | 16 TOPS |
TDP | 28W | 28W | 45W |
PPT | 54W | 54W | 54W |
MSRP | – | – | – |
発売日 | 2025/01/06 | 2024/07/01 | 2023/12/06 |
Ryzen AI 7 350は、Zen 5アーキテクチャを採用したモデルだ。Zen 4のRyzen 7 8845HSの後継モデルという位置づけになる。プロセスは4nmと共通だ。ダイサイズは178m㎡から195m㎡へと10%弱大きくなった。Ryzen AI 7 350では4つのZen 5コアと4つのZen 5cコアを組み合わせて8コア16スレッドというスペックを実現している。Zen 5cコアはクロック周波数を引き下げた省電力コアだ。
Ryzen 7 8845HSと比べると主要コアが定格クロックが1.8GHz低く、最大クロックも0.1GHz低い。Ryzen 7 8845HSにはZen 5cコアは搭載されていない。Ryzen AI 7 350のZen 5cの定格クロックは2.0GHzで、最大クロックは3.5GHzだ。Zen 5コアよりも最大で30%も抑えられていることがわかる。Ryzen 7 8845HSと同様にオーバークロックには対応していない。L2キャッシュ及びL3キャッシュ容量も変わらない。
メモリはDDR5-5600は同じだが、LPDDR5X-8000とより高クロックなメモリをサポートしている。内蔵グラフィックスもRadeon 780MからRadeon 860Mと進化した。実行ユニットは4基少なくなったが、グラフィックス周波数は0.3GHz引き上げられている。NPUが16 TOPSから50 TOPSへと大幅に進化した。製品名の”AI”も伊達じゃない。TDPは17W低くなっている。Zen 5cコア搭載による恩恵だろう。PPTは54Wと共通だ。
上位のRyzen AI 9 365は同じZen 5だがコードネームはStrix Pointとなる。Krackan Pointとの大きな違いはコアの数だ。4つのZen 5コアと最大で8つのZen 5cがある。Ryzen AI 9 365では4つのZen 5コアと6つのZen 5cコアを搭載していてスペックは10コア20スレッドだ。Ryzen AI 7 350よりもZen 5cコアが2基多くなっている。Zen 5コアの定格・最大クロックは同等だ。Zen 5cコアの定格は2.0GHzと共通だが、最大クロックはRyzen AI 7 350の方が0.2GHz高い。
キャッシュ回りもRyzen AI 9 365の方が優れている。L2キャッシュは2MB多く、L3キャッシュも8MB多い。対応メモリは共通となる。内蔵グラフィックスは上位のRadeon 880M搭載だ。Radeon 860Mよりも実行ユニットが4基多い。グラフィックス周波数は0.1GHz低くなっている。NPUは50 TOPSと共通だ。TDPやPPTにも違いはない。基本的なスペックが強化されたモデルと考えるとよい。

NPUのパフォーマンスを除けばRyzen 7 8845HSとアーキテクチャ的にほとんど変わらないといえそうだ。Zen 4コア8つがZen 5コア4つとZen 5cコア4つに置き換わっている。ここからわかるのは省電力性の向上だろう。よりクロック周波数を落としたZen 5cコアを搭載しながらも同等の性能を維持しているのは評価できる点だ。
Ryzen AI 7 350搭載ゲーミングノートPCの性能と特徴
前世代のRyzen 7 8845HSとほとんど変わらない
Ryzen AI 7 350の総合性能スコアは22,023だ。おおよそミドルクラス相当のパフォーマンスを持っているといえる。GeForce RTX 5060 Mobileとの組み合わせがベストだろう。従来モデルのRyzen 7 8845HSやRyzen 7 7840HSよりもわずかにスコアが低くなっている。次世代モデルながらそこまで性能が高いわけではない。省電力特化のZen 5cコアでは完全な代替にはならないということだろうか。
それでもCore Ultra 7 155Hよりも5%程度スコアが高い。Zen 3のRyzen 7 5800Hと比べても20%以上処理性能が向上している。デスクトップ向けのRyzen 7 5700Xよりも4%弱低く、Core i5-14400よりも9%弱低い。今の時代のモデルの中に入ると性能的には埋もれてしまう。NPUなどに価値を見いだせるユーザー向けといえるかもしれない。ハイエンドのHXシリーズやフラグシップモデルのRyzen AI Max+ 395との性能差は大きい。
意外と消費電力が高い
製品名 | ゲーム平均 | ゲーム最大 | アイドル平均 |
---|---|---|---|
Core Ultra 9 275HX | 39.6W | 103.3W | 8.5W |
Ryzen 9 9955HX | 44.7W | 114.8W | 12.1W |
Core i7-14650HX | 57.9W | 70.4W | 9.1W |
Ryzen AI 7 350 | 58.8W | 70.5W | 3.9W |
上記はFF14のベンチマーク計測時の消費電力をまとめたものだ。TDP 28Wのモデルとしては消費電力は高かった。ハイクラスのCore i7-14650HXやRyzen 9 9955HXよりもゲームプレイ時の平均消費電力が高い。もっともゲーム最大消費電力を見ると70.5WとCore i7-14650HXと同等になることから長時間ゲームをプレイした場合は平均消費電力も低くなる可能性がある。アイドル時は3.9Wと抑えられていることがわかる。別の機会にワードやエクセルなど他のアプリケーション使用時の消費電力も計測してみたいと思う。
ゲーミングノートPCのラインナップはそれほど多くない
Ryzen AI 7 350を搭載したゲーミングノートPCはそれほど多くない。調査をしてみた結果、2025年8月時点だと10機種もなく選択肢はほとんどないと考えてよい。メーカー的にはHP・MSI・ドスパラで取り扱いがある。海外BTOメーカーが中心となる。どのモデルもパフォーマンスよりもポータブル性あるいは省電力性を重視しているように思える。ゲーミングノートPCにおける本命CPUはFire RangeのRyzen 9 9955HX3DやRyzen 9 9955HXだろう。実はビジネス向けモデルも含めればラインナップは増える。マウスコンピューターもCopilot+PCのビジネスモデルを販売中だ。
Ryzen AI 7 350の特性を考えるとそれも納得できる。TDPは28Wに抑え省電力性を重視したモデルだ。性能重視のゲーミングノートPCとの相性がばっちりというわけではない。Ryzen AI 7 350のハイライトはやはり50 TOPSを実現した高性能なNPU(Neural network Processing Unit)にある。ここからわかるのはそもそも外付けのグラフィックボード搭載を前提としていないのかもしれない。ゲーミングノートPCを利用する方がNPUを活用する場面は少ないように思う。そう考えるとAI対応CPUがもったいなく感じてしまう。一気にハイエンドモデルを選択するのも一つだろう。
Ryzen AI 7 350のベンチマーク一覧
Cinebench R23
マルチコアは16,457、シングルコアは1,976となる。マルチコア性能は従来モデルのRyzen 7 8845HSよりも3%程度低いが、シングルコア性能は17%も高くなっている。アーキテクチャの進化ということだろう。デスクトップ向けのCore i5-14400やRyzen 7 5700Xよりもスコアが高いのは驚きだ。ただし、より世代の新しいCPUの場合は正しいスコアが出づらい側面もある。次のCinebench 2024のスコアも参考にしてほしい。
Cinebench 2024
Cinebench 2024ではRyzen 7 8845HSよりもスコアが高い。マルチコアが1%高く、シングルコアも12%高くなっている。デスクトップ向けのRyzen 7 5700Xと比べてもマルチコアが10%弱高く、シングルコアも26%高い。ノート向けモデルでもここまでの数値が出ていることは驚きだ。注意点としてはCinebench 2024のスコアが実世界のパフォーマンスをそのまま反映しているわけではない。全コアに高負荷が掛かる場面というのはイレギュラーだからだ。
Blender
Ryzen AI 7 350のベンチマークスコアは238.45となる。Ryzen 7 8845HSと比べると7%程度スコアが低くなっている。Core i7-13620Hと同程度だ。デスクトップ向けのRyzen 7 5700Xよりも19%弱高く、Core i5-14400よりも25%弱高くなっている。期待以上の結果が出ているように思う。
Handbrake
動画のエンコードに掛かる時間を計測した。H.265が4:06、H.264が8:50という結果だ。デスクトップ向けのCore i5-14400を上回るパフォーマンスとなった。Ryzen 7 5700Xと比べてもH.264で25秒短縮、H.265でも1分4秒短縮と性能の高さを見せつけている。一方で、旧世代のRyzen 7 8845HSやRyzen 7 7840HSには届かなかったのは残念だ。
7-Zip
Zipファイルの展開(解凍)及び圧縮速度をまとめている。Ryzen AI 7 350は下からニ番目という結果だ。Ryzen 7 8845HSと比べると展開速度が30%弱遅く、圧縮速度も31%程度遅い。さすがにこれだけの性能差が出るのは不自然で最適化など他の問題が疑われる。Core i5-14400と比べると展開速度こそ2%上回ったが、圧縮速度は10%弱遅くなっている。
Adobe Photoshop
Pugetbenchを活用してPhotoshopのパフォーマンスを計測した。スコアは6,514と妥当な範囲に収まる。Ryzen 7 8845HSよりもわずかにスコアが高いが、これぐらいの差であれば誤差といえるかもしれない。デスクトップ向けのRyzen 7 5700Xよりも4%弱スコアが高い。6,000台のスコアが出ていることを考えればPhotoshopでは十分通用すると考えてよいだろう。
Ryzen AI 7 350搭載ゲーミングノートPC一覧
OMEN 16(AMD)アドバンスモデル(HP)
価格:
322,300円 199,800円+送料3,300円
液晶:16.0インチWQXGA 240Hz
CPU:Ryzen AI 7 350
GPU:GeForce RTX 5060 Mobile
メモリ:DDR5-5600 24GB
ストレージ:SSD 1TB Gen4 NVMe
電源:230W ACアダプター
コスパ:調査中
Ryzen AI 7 350×GeForce RTX 5060 Mobile搭載のミドルクラスのゲーミングノートPCだ。16.0インチWQXGAディスプレイを搭載している。本体重量は約2.44kgとやや重めだ。持ち運びを想定している方は注意が必要だろう。オーソドックスなデザインで万人受けするように思う。GPUにはミドルクラスのGeForce RTX 5060 Mobileを搭載している。設定を下げれば高解像度でもゲームを楽しめる。Ryzen AI 7 350との相性も良好だ。メモリはDDR5-5600 24GBを搭載している。12GB×2枚組の珍しいモデルだ。ストレージはSSD 1TB Gen4 NVMeとなる。電源は230W ACアダプター付属だ。
OMEN 16(AMD)アドバンスプラスモデル(HP)
価格:
366,300円 229,800円+送料3,300円
液晶:16.0インチWQXGA 240Hz
CPU:Ryzen AI 7 350
GPU:GeForce RTX 5070 Mobile
メモリ:DDR5-5600 32GB
ストレージ:SSD 1TB Gen4 NVMe
電源:230W ACアダプター
コスパ:調査中
上記アドバンスモデルの上位モデルとなる。GPUにGeForce RTX 5070 Mobileを搭載していてワンランク上のパフォーマンスを得られる。WQXGAディスプレイを活かすならGeForce RTX 5070 Mobileはぴったりだ。CPUとのバランスはまずまずといったところだ。メモリはDDR5-5600 32GB・SSD 1TB Gen4 NVMeと充実の構成を持つ。ゲーム以外の用途にも対応しやすい。電源は230W ACアダプター付属となる。本体重量は約2.44kgと重く持ち運びに適しているとは言いづらい。
Pulse-A17-AI+C3HWFKG-2051JP(MSI)
価格:
289,800円 226,800円+送料770円
液晶:17.0インチWQXGA 240Hz
CPU:Ryzen AI 7 350
GPU:GeForce RTX 5060 Mobile
メモリ:DDR5 32GB
ストレージ:SSD 1TB NVMe
電源:200W ACアダプター
コスパ:調査中
17.0インチWQXGAディスプレイ搭載のゲーミングノートPCだ。240Hz対応とスペックが高い。本体重量は約2.80kgと重量級だ。はっきりと持ち運びには不向きだ。Ryzen AI 7 350×GeForce RTX 5060 Mobile搭載のミドルクラスモデルで高いゲーム性能を持つ。負荷の高いオープンワールドにも対応しやすい。メモリDDR5 32GB・SSD 1TB NVMeと構成も抜群だ。電源は200W ACアダプター付属となっている。
GALLERIA XL7R-R56-6A (ドスパラ)
価格:279,980円+送料3,300円
液晶:16.0インチWQXGA 240Hz
CPU:Ryzen AI 7 350
GPU:GeForce RTX 5060 Mobile
メモリ:DDR5-5600 16GB
ストレージ:SSD 1TB Gen4 NVMe
電源:180W ACアダプター
コスパ:6.6