raytracing出典:(NVIDIA, 2022)

最近話題のレイトレーシングについて解説していく。レイトレーシングはゲームのグラフィックスをより美しく描写する技術のことだ。具体的には車体に反射される景色、水面に映る建物・木、ビルに移る主人公(キャラクター)などが表現できるようになる。これらのことが表現できるだけでぐっとリアルなグラフィックスを手に入れることが可能だ。ゲームの場合はリアルタイムで処理が行われるためリアルタイムレイトレーシングと呼ばれる。リアルなグラフィックス描写の代償としてグラフィックス負荷が上がり高性能なグラフィックボードが必要となる。各グラフィックボードの性能は「グラフィックボード比較表【新旧170モデルの性能・コスパ掲載】」で確認して欲しい。

2018年8月20日にNVIDAがレイトレーシング対応のGeForce RTX 20シリーズを発表したことで一気に注目度が増したコンピューターグラフィックスのレンダリング技術だ。競合モデルのAMDもNVDIAから2年遅れて2020年にRTコアを搭載したRadeon RX 6000シリーズを発売した。現行モデルだとNVIDIAはGeForce RTX 50シリーズ(第4世代RTコア)を、AMDはRadeon RX 9000シリーズとなる。AMDもレイトレーシングに力を入れていて飛躍的に性能が向上している。DLSS(アップスケーリング技術)と同様に各メーカーが力を入れている技術だ。今後も両企業の競争は続きそうだ。

レイトレーシングとは

レイトレーシングとは、よりリアルな照明の効果を生み出すレンダリング技術*の一つだ。レイトレーシングでは画面側にレンズがあり光源に対してレイ(光)を発してそれを追跡することで画面外の物体についても認識して処理を行える。例えば、画面外にある光の動きを計算して描写しているイメージだ。これによって見えない部分の描写も可能となる。ただし、複数のレイを発することになるため負荷はどうしても大きくなる。映画やテレビなどでは別に処理を行えるが、ゲームの場合はリアルタイムで処理する必要があることもネックだ。

*レンダリングとは

レンダリングとはコンピューター向けのデータ・情報を計算して人間が見れる画像として出力することを意味する。

一方で、従来のラスタライズ法は3次元の物体について三角形やポリゴン(多角形)を組み合わせてグラフィックスを表現している。見たままをそのまま表現していると考えるとわかりやすい。ラスタライズ法では画面外の物体については排除されリアルではなくなってしまう。結果的に負荷を下げることができているのだ。グラフィックボードの性能が高くなった時代はこれでよかったが、ここ最近のグラフィックス処理性能の向上は目を見張るものがありラスタライズ法だけでは持て余してしまう。

レイトレーシングを簡単に言えばゲームのグラフィックをよりリアルにできる技術ということだ。ゲームをプレイしていて現実の世界とは少し異なる違和感を感じることも多いのではないかと思う。レイトレーシングを活用すればゲームの世界を現実世界に近づけることができる。レイトレーシングとしてはかげ「Shadow」・鏡像きょうぞう「Reflexion」・環境遮断かんきょうしゃだん「Ambient Occlusion」・間接光かんせつこう「Global Illumination」の4つの要素(ITmedia PC USER, 2022)が挙げられる。テクニカルジャーナリストの西川善司氏によるとグラフィックス処理性能が追いつかずレイトレーシングが対応する4つの要素の中で1つしか処理できないとなれば、費用対効果の面で鏡像きょうぞうを優先すべきということ(ITmedia PC USER-2, 2022)だ。鏡像表現によってグラフィックスの質がぐっと高いものになる。場面によっては複数の要素が処理されることもあるだろう。

実際にこれらの要素があると何が変わるのかについては、詳細は次の項目の「レイトレーシングの何がすごいのか」を確認して欲しい。NVIDIAの公式サイトでは、タイトルごとに対応技術としてこれらの要素が記載されている。当サイトでも「レイトレーシング対応タイトル一覧」でまとめているので参考にしていただけれあbと思う。当面はレスタライズ法とのハイブリッドレンダリングが主流となりそうだ。4要素の内複数の処理をRTで高フレームレートを実現するとなると、20TFLOPS級以上の演算能力を持つグラフィックスが必要になるということ(ITmedia PC USER, 2022)だ。

最新のAda Lovelace世代でのラインナップはミドルハイクラスのGeForce RTX 4060 Tiで22.06 TFLOPSと数値は高い。世代が進むごとにグラフィックボードの性能は向上しているのは確かだが、多くのユーザーここまで性能を持つモデルを選択するわけではない。しばらくは1つあるいは2つのRT技術が補完的に使用されることになるだろう。機械学習法の一つであるDLSSを活用すれば高いフレームレートを維持しやすくなるというメリットがある。基本的にはDLSSを併用しながらゲームをプレイすることになる。

レイトレーシングの何がすごいのか

レイトレーシングを活用すればより現実社会に近いグラフィックを実現できる。水面に浮かぶ雲、壁に映るビル群などよく観察してみるとそのリアルさに驚くことになる。ただし、アクション性の高いタイトルだと立ち止まってじっくり観察しないとわかりづらい。実用性はまだまだこれからだ。やはり映画などと違ってリアルタイムでの処理となるのがネックとなる。レイトレーシングの効果については実際の動画を見るのが早い。レイトレーシングをわかりやすく紹介している動画を2つピックアップした。


ポイント

レイトレーシングの凄さはNVIDIAが公開している動画を見ればすぐにわかる。最初の場面では、水面に「NEXT LDN」と書かれたビルが反射していてよりリアルなグラフィックスに仕上がっている。2つめの動画では光の影がキレイに描写されている。それ以降もRTX ONとOFFで大きく描写が異なることがわかるだろう。


ポイント

けいじチャンネル氏の動画では、ゲーム画面ごとにレイトレーシングの有り無しが比較されていてイメージしやすいのではないかと思う。レイトレーシングについての理解を深めたい方は一通り見てみるとよいだろう。レイトレーシングに対応しているタイトルでは積極的に体感したいところだ。

完全レイトレ「パストレーシング」から見るゲームの未来


Cyberpunk 2077・Minecraft・Portaなどパストレーシングに対応したタイトルも増えてきている。上記動画ではCyberpunk 2077においてレイトレーシングOFF・レイトレーシング・パストレーシングそれぞれゲーム映像が見られる。確かにじっくりと見ればレイトレーシングとパストレーシングで差があるが、ゲームをプレイしていてその差に気付けるかと言われると難しい。

パストレーシングとは、完全レイトレーシングとも呼ばれレイトレーシングを強化した技術だと考えるとよいだろう。レイトレーシングとは、光源からレイを発してそれらを追跡することで物体の反射などを表現していることを述べた。パストレーシングではレイトレーシングよりも多数の反射や屈折を繰り返してより正確な描写が実現するのだ。

物体からも新しいレイを発するので、当然負荷は膨大なものになる。GeForce RTX 4090などのハイエンドグラフィックボードやDLSSなどの活用が必須と言えるだろう。現時点ではパストレーシングとは言っても発射されるレイの数は限定的だ。RTコアの性能が高くなれば映画のCGと同等にまでなる可能性がある。10年単位で見れば現実的なように思える。

レイトレでどれだけフレームレートが下がる?

Cyberpunk2077top
raytracingperformance
レイトレーシングを有効化すると負荷が大幅に上がる。Cyberpunk 2077のベンチマークでどれだけフレームレートが落ちるのかを見ていく。Ada Lovelace世代のフラグシップモデルであるGeForce RTX 4090だとレイトレOFFで85.6fpsが出ている。これがレイトレーシングの有効化で45.5fpsへと46%程度落ち込む。GeForce RTX 40シリーズの場合下げ幅は45%前後だ。

一方で、Radeon RX 7000シリーズになるとさらにパフォーマンスが落ちる。フラグシップモデルであるRadeon RX 7900 XTXでは通常時74.8fpsと高いフレームレートが出ているが、レイトレの有効化で21.1fpsまで下がる。なんと73%もフレームレートが低くなっている。Radeon RX 7900 XTやRadeon RX 7800 XTでも極端にフレームレートが下がっていることがわかる。

DLSSでレイトレーシングの課題を克服

nvidisadlss3出典:(NVIDIA-2, 2022)

レイトレーシングの課題は、負荷が高くフルHD環境でないと満足にゲームプレイを楽しめないことだ。Ada Lovelace世代の上位のモデルならある程度対応できるが、コストが掛かるため一般ユーザー向けとは言えない。その課題を克服するために、DLSS(Deep Learning Super Sampling)と呼ばれる機能がある。これは機械学習法の一つで負荷を下げつつも画質を落とさず高いフレームレートを実現できる魔法の機能だ。レイトレーシングとDLSSは切っても切れない関係にあると言っても過言ではない。

上記NVIDIAの資料によると、DLSS 3(DLSS Frame Generation)を活用すればパフォーマンスが200%-550%まで向上することがわかる。これによってハイエンドクラスのグラフィックボードでなくてもレイトレーシングを楽しめるというわけだ。DLSS 3.0に対応しているタイトルはまだまだ少ないが、今後増えてくれば選択肢が広がることになる。なお、GeForce RTX 30シリーズ/RTX 20シリーズで使用できるDLSS Super Resolutionでもフレームレートは向上する。

2025年に登場したGeForce RTX 50シリーズではさらにDLSSが強化されている。マルチフレーム生成に対応していて最大3フレームを生成することができる。フレームレートは最大で8倍まで向上(NVIDIA, 2025-2)するということだ。高解像度でレイトレーシングを活用するならDLSSは必須といえそうだ。

レイトレーシング対応タイトル一覧

タイトル フルレイトレーシング レイトレーシング DLSS 4.0 DLSS 3.0 DLSS 2.0 Reflex
Alan Wake 2
インディ・ジョーンズ/大いなる円環
ウィッチャー 3: ワイルドハント コンプリートエディション × ×
Warhammer 40,000: Darktide × ×
黒神話: 悟空
ゴッド・オブ・ウォー ラグナロク × ×
サイバーパンク 2077
サイレントヒル 2 ×
SUPER PEOPLE 2 × ×
Star Wars Outlaws ×
S.T.A.L.K.E.R. 2: Heart of Chornobyl × ×
DOOM: The Dark Ages
Dune: Awakening
ディアブロ IV ×
ドラゴンエイジ: ヴェイルの守護者 ×
Half-Life 2 RTX
フォートナイト × × ×
Black State ×
The First Descendant ×
FINAL FANTASY XVI × × ×
Forza Horizon 5 × ×
Portal With RTX ×
Microsoft Flight Simulator × ×
Marvel’s Midnight Suns × ×
Marvel’s Spider-Man: Miles Morales × ×
Minecraft for Windows Bedrock Edition × ×
リビッツ! ビッグ・アドベンチャー × ×
Returnal × ×

出典:(NVIDIA, 2025)

フルレイトレーシングとは、パストレーシングとも呼ばれレイトレーシングの上位互換技術と考えてよい。カメラからレイ(光線)を発射して画面全体の光線をより細かくシミュレーションできる。映画でも使われる技術でより高性能なグラフィックボードがあるからこそ実現したと言える。NVIDIA Reflexとは、低遅延技術でより快適なゲームプレイが可能だ。ここに記載したタイトルをメインにプレイしているならグラフィックボードのランクを上げてみてもよいかもしれない。

筆者のレイトレーシングに対する評価

筆者は現在AMDベンチマーク機(RTX 4090)でゲームを楽しんでいる。このモデルで性能不足になることはないだろう。レイトレーシングを最大品質にしてもfpsが安定するのは心強い。Cyberpunk 2077・Forza Horizon 5・Microsoft Flight Simulatorと一通りプレイした。結論としてこれらのタイトルでレイトレーシングを有効化しても無効時との差を体感できなかったのが本音だ。

最高品質(エクストリーム etc.)であればレイトレーシングがなくてもすでにグラフィックの作り込みが凄くて感動するほどだ。そこにレイトレーシングが追加されても100が105になるというイメージだ。元々の数値(グラフィックス)が高いため気づきづらいのかもしれない。もちろん、特定の場所で止まってじっくり見れば鏡像きょうぞうは確認できる。たとえば、水面への空(雲など)の映り込みや建物へのビル群の映り込みがはっきりとわかる。

レースにしてもFPSにしてもやはり常に画面が動いているため一つ一つのグラフィックを堪能している時間がない。OFFの状態で相当時間ゲームをやり込んでから有効化すればまた話は違ったかもしれない。評価は現時点ではなくても問題ないとなる。性能的に問題がなければとりあえずレイトレーシングを有効化しているだけで、なしの状態との差を体感することは難しい。Youtubeの動画を見てもやはり違いがわかりづらい。リアルタイムレイトレーシングの未来に期待したいところだ。

参照外部サイト