dlss3.0*上記画像をクリックするとNVIDIAの公式サイトに遷移

当記事では、NVIDIAが提供する深層学習AIによるポストプロセス*であるDLSSについて解説していく。DLSS(Deep Learning Super Sampling)は、負荷を下げながらもより高画質な映像を出力できる夢のような機能だ。GeForce RTX 40シリーズではDLSS 3.0をサポートしていて、よりキレイなグラフィックス描写とパフォーマンス向上が実現する。

DLSSを利用することで高いフレームレートを維持できるので、負荷の高いレンダリング技術の「レイトレーシング」と相性のよい機能となっている点も注目だ。2023年8月にはDLSS 3.5のリリースが発表された。ハイライトは「Ray Construction」と呼ばれる技術だ。ゲームの高画質化が可能となる。DLSSおよびレイトレーシングの対応タイトルは、「DLSS対応ゲーム一覧」でまとめているので参考にして欲しい。

*ポストプロセスとは

ポストプロセスとは、映像出力前に行う映像処理全般のことを指す。DLSSの場合は超解像アップスケール技術のことだ。

DLSS使用イメージ

cyberpunk-rt

上記はCyberpunk 2077でのベンチマークを計測したものだ。マシーンはCore i9-13900K×RTX 4060 Ti 16GB搭載モデルとなる。レイトレーシングをウルトラにするとFPSは「71」となる。この数値なら高リフレッシュレートモニターは活かしづらいがゲームプレイ自体は問題ない。

cyberpunk2077-dlss
こちらはレイトレーシングウルトラでDLSS 3.0(Frame Generation)を有効化している。FPSは「114」とDLSSなしの時と比べてフレームレートが60%以上も向上している。基本的に画質もよくなると考えてよい。

DLSSとは

DLSS(Deep Learning Super Sampling)とは、深層学習AIを活用した超解像技術のことだ。具体的には低解像度でゲーム画面をレンダリングして超解像アップスケール処理後に、高解像度のゲーム画面を出力するということになる。簡単に言えばAIを使ってリアルタイムで低解像度の動画を高解像度に変換させるのだ。DLSSはアップスケール技術の一つとなる。

Maxwell世代(GTX 900番台)に登場した「DSR(Dynamic Super Resolution)」や「DLDSR(Deep Learning Dynamic Super Resolution)」は、高解像度(最大で4倍)でレンダリングを行いそれを低解像度に落とし込むことで高画質を実現している。DLDSRはDSRの進化版でTensorコアを活用して、より効率的にユーザーが使用しているモニターに合った解像度に合わせられる。DSRおよびDLDSRはダウンスケール処理を行っていて、アップスケール処理を行うDLSSとは異なる。DSR/DLDSRでは最大で通常の4倍の解像度でレンダリングを行うため、ある程度グラフィックス処理性能に余力がないとフレームレートが低下してしまう。

DLSSがあれば新しいゲーミングPCを購入しなくてもある程度高解像度でゲームを楽しめる。負荷を下げつつ画質自体も向上するので理想的な技術だと言える。DLSSのおかげでGPU負荷を下げられて、より高いフレームレートを実現できるということになる。仕組みとしてはNVIDIAのニューラルネットワーク(スーパーコンピューター)が、64倍でスーパーサンプリングされた画像とアンチエイリアシングなしの画像を受け取るところから始まる。その後ニューラルネットワークがそれらの画像を繰り返し比較して学習を行う。その結果をGeForce向けのGame Readyドライバーが保存して、GeForce Experience経由でユーザーに配信される。

そしてユーザーが所有するグラフィックボードのTensorコア(AI)が、リアルタイムにゲーム画面の推論を行い効率的にアンチエイリアス処理を行えるのだ。従来のアンチエイリアスであるTAA(Temporal Anti-Aliasing)と比べても、よりエッジが鮮明で高画質になる。アンチエイリアス処理が軽減されてフレームレートがより高く維持できる。ユーザーはゲーム側で調整するだけだ。ミドルクラスのグラフィックボードでもWQHD環境以上でのゲームプレイも現実的になる。「現行のグラフィックボード性能比較表」のスコアで言えば20,000以下のモデルでこそDLSSが活きる。レイトレーシングの対応力も増す。

AMDもNVIDIAのDLSSに代わるFSR(FidelityFX Super Resolution)をリリースしている。FSRは深層学習型ではなくアルゴリズム型なので推論アクセラレータは不要だ。さまざまなグラフィックボードで超解像技術を活用できるのは大きなメリットとなる。AMD Radeonシリーズ以外のグラフィックボードでも利用可能だ。

ただし、超解像技術の使用において通常のシェーダプロセッサーを使用するため、状況によってはパフォーマンスが落ちてしまうこともある。そこは独立したコアを持つDLSSが有利だ。また、DLSSが過去のフレームも参照して解析するのに対して、FSRでは現在の1枚のみの解析となる。品質面ではDLSSの方が有利だ。DLSSにもFSRにも長所と短所があるのだ。FSRはGPUOpenでソースコードを公開していて、ゲーム側の導入ハードルがDLSSよりも少しだけ低いというのも強みと言えそうだ。

DLSSのバージョンと進化

Super Resolution&DLAA
(全てのRTXシリーズ)
Frame Generation
(RTX 40シリーズのみ)
Ray Reconstruction
(全てのRTXシリーズ)
DLSS 3.5
DLSS 3×
DLSS 2××

2018年のDLSS登場から2023年時点までのDLSSの進化についてまとめている。登場から5年の月日が流れてある程度熟成されてきたように思える。

DLSS 1

2018年9月に発売のGeForce RTX 20シリーズで初めてDLSSが搭載された。リリース時点ではBattlefield Ⅴ・Shadows of the Tomb Raider・モンスターハンターワールド・Metro Exodusなど対応タイトルも少なく活用しているユーザーも少なかった。ゲームタイトルごとにニューラルグラフィックスネットワーク(NGX)で学習する必要があり、実装のハードルが高かったのだ。

その他にもフルHD環境には対応していなかったり、ノイズ・乱れ・ぼやけが出てしまったりとまだまだ改善の余地があるバージョンだった。そうは言ってもこのバージョン1.0がなければ今のDLSS自体がないわけで存在価値が大きい。NVIDIAはゲームのAI分野において大きな一歩を踏む出すことになった。

DLSS 2

2020年3月にNVIDIAが、DLSSのアップデートバージョンであるDLSS 2を発表した。GeForce RTX 30シリーズ/RTX 20シリーズでも利用可能だ。AIネットワークが見直されて、DLSS 1比で描写性能が最大2倍となっている。より高画質なグラフィックスも実現している。Quality・Balanced・Performance・Ultra Performanceという4つの画質モードを選択できるようになった。ユーザーの好みやゲームの特性に合わせて柔軟に対応できるのは嬉しい。

DLSS 2.0では1つのネットワークで複数のタイトルに対応できるようになった。つまり、タイトルごとに全てのトレーニングを行う必要がなくなったということだ。火・水などの共通エフェクトについては、ゲームごとに学習させる必要がなくなりゲーム運営側の実装ハードルが引き下げられている。

結果的にDLSS対応タイトルが増えるという好循環が生まれる。その後1回のメジャーアップデートがリリースされてより品質が向上している。2021年6月にAMDが、DLSSの対抗技術としてFidelityFX Super Resolutionをリリースした。対応ハードウェアが増えるという点でユーザーにとってメリットが大きい。

DLSS 2.3

2021年11月にDLSS 2.3が発表された。ゲーム上のモーションベクターの優れた活用で動きのある物体の描写・パーティクル再構築・ゴースティングなどが改善されている。下記2つの例を見ればよりイメージしやすくなるのではないかと思う。

dlss2.3-cyberpunk出典:(NVIDIA, 2021)

Cyberpunk 2077でのスクリーンショットだ。車の左サイドミラーの端からDLSS 2.1では白いものが続いている。右側のDLSS 2.3ではその白いものがなくなりゴーストが軽減されていることがわかる。

dlss2.3-doom出典:(NVIDIA, 2021)

DOOMの例もわかりやすい。火の粉がゴーストによって線のようになっている。DLSS 2.3ではかなり改善されていてより忠実に再現されている。

DLSS 3

2022年10月に最新のDLSS 3.0がリリースされた。通常のレンダリングと比べて性能が最大で4倍になる画期的なものだ。グラフィックス負荷の高いタイトルでも快適にゲームを行える。DLSS 2とは違ってGeForce RTX 40シリーズでのみ使用できる技術となる。従来のアップスケールに加えて「Frame Generation(フレーム生成)」が追加されている。2つを組み合わせることで高フレームレートを実現できる。

フレーム生成自体はGPUで後処理として実行されるので、CPUがボトルネックとなっていてもフレームレートを高めることが可能だ。つまり、これまではあまり恩恵のなかったフルHD環境でもメリットがあるということになる。なお、フレーム生成の弱みであるレイテンシを軽減するためにNVIDIA Reflexが搭載されている。CPUとGPUのバランスを取りより滑らかなゲーム描写を実現している。

ゴーストの低減やエッジの滑らかさの向上など画質も向上している。2022年10月時点で、35以上のゲームやアプリケーションがサポートを表明(NVIDIA, 2022)しているということだ。

DLSS 3.1

2023年2月にDLSS 3.1が利用可能となった。今回のアップデートでは、DLSSの自動更新・異なるスケーリング比率とゲームコンテンツに合わせたDLSSのカスタマイズ設定・パフォーマンスの最適化・バグの修正などが実施されている。マイナーアップデートと言えるだろう。

DLSS 3.5 NEW!

2023年8月にDLSS 3.5が発表された。導入は2023年の秋頃を予定しているようだ。新機能の「Ray Reconstruction(レイ再構築)」が追加され、レイトレーシングの品質向上が実現する。従来のレイトレーシング処理では、ゲームエンジンによって生成された対象物(マテリアルやジオメトリ)に光線を発射して様々な照明効果に関するデータを得る。

しかしながら、そのデータは完全なものではなくそのままではグラフィックスの描写ができないのでノイズ除去を行う。デノイザーが、Temporal AccumulationとSpatial Interpolationと呼ばれる2種類の方法でデータを補完する。ただし、これらの方法も完璧ではなくノイズ除去の過程でブラーが発生したり、間違った映像を出力してしまったりと問題が生じることがある。

そこでRay Reconstructionの出番だ。機械学習によって光線を再構築してノイズの少ないデータを出力する。マテリアルやジオメトリだけではなく、モーションベクターなどの情報をAIが処理する。驚くべきことにこのAI結果的により綺麗なグラフィックス描写が可能となるのだ。

Alan Wake 2・Cyberpunk 2077・Cyberpunk 2077: Phantom Liberty・Portal with RTX・Chaos Vantage・D5 Render・NVIDIA Omniverseなどに対応予定だ。興味深いのはD5 Renderなどゲーム以外の用途でも有効となっていることだ。

cyberpunk2077-dlss3.51出典:(NVIDIA, 2023)

Ray Constructionのおかげでより適切なヘッドライト照明が実現している。手動のデノイザーの弱点を克服していると言える。

cyberpunk2077-dlss3.52出典:(NVIDIA, 2023)

DLSS 3.5の有効化で、ビルボードの反射やネオンライト正確に描写されている。

DLSS有効化のメリット

高いフレームレートを実現できる

DLSS有効化による最大のメリットは、高いフレームレートを実現できることだ。最新のDLSS 3.0なら通常のレンダリングと比べて、最大で4倍のパフォーマンス向上を見込める。DLSSと同時期に導入されたレイトレーシングを有効化するとよりきれいなグラフィックを実現できるが、その分負荷が大きくなりフレームレート低下につながってしまう。

そのような状況においてDLSSが活躍することになる。DLSSを有効化すれば負荷を下げつつ高いグラフィックを実現できる。結果的に高いフレームレートを維持できるということだ。DLSSはレイトレーシングと相性のよい技術だと言えるだろう。特に60番台や70番台のグラフィックボードで、フレームレートを安定させるにはDLSSが必須と言えるかもしれない。なお、負荷が下がることによって消費電力を抑えられるという副次的なメリットも忘れてはいけない。

時間とともに進化するため将来性が高い

NVIDIAは日々DLSSの学習を進めていて、時間と共にパフォーマンスが向上する仕組みとなっている。これは深層学習のメリットだ。たとえば、あるタイトルでグラフィックスにやや難があったり、フレームレートが伸びなかったりといった問題があっても、時間の経過とともに改善される可能性が高いということだ。

新しいDLSSのバージョンがリリースされれば、Game Readyドライバーを通じてユーザーが活用できる。新しいタイトルの追加や各タイトルごとのアップデート情報については、NVIDIAの公式ブログ(外部リンク)から確認可能だ。定期的に確認しておくとよいだろう。

DLSSの注意点

ゲーム側での対応が必須となる

すべてのタイトルでDLSSを活用できるわけではなく、ゲーム側で対応している必要がある。これからグラフィックボードを購入する予定の方は、事前にプレイしているタイトルが対応しているかどうか確認しておくとよい。DLSS 2.0以降汎用性の高いニュートラルグラフィックスネットワークを導入したことで、DLSS導入のハードルが下がっているので今後は対応タイトルも増えていくはずだ。

対応グラフィックボードが必要となる

ハードウェア側でも対応グラフィックボードが必要だ。具体的にはGeForce RTX 20シリーズ以上のモデルがないとDLSSを利用できない。最新のDLSS 3.0を利用するには、Ada Lovelace世代のGeForce RTX 40シリーズが必要となる。DLSS 2.0でも性能的にはRTX 30シリーズ以上が好ましい。競合のAMDが提供するFSR(FidelityFX Super Resolution)は、対応グラフィックボードの幅が広く汎用性がある。FSRなら対応グラフィックボードが必要となる弱点を補える。

DLSS対応ゲーム一覧

タイトルDLSS 3.5 DLSS 3.0 DLSS 2.0レイトレ
Alan Wake 2
A Plague Tale: Requiem×
Bright Memory: Infinite×
Cyberpunk 2077
Diablo IV××
Escape From Tarkov×××
Hogwarts Legacy×
F1 22×
Fortnite××
Forza Horizon 5×
Marvel's Spider-Man×
Microsoft Flight Simulator××
Minecraft with RTX××
Monster Hunter Rise×××
Mount & Blade II: Bannerlord×
NVIDIA Racer RTX×
Portal With RTX
The Witcher 3: Wild Hunt×
Warhammer 40,000: Darktide
×
Witchfire×

参照外部サイト