Ryzen 9 7940HSのスペックレビュー&性能ベンチマークを検証していく。モバイル向けRyzen 7000シリーズ(メインストリーム)のフラグシップモデルだ。Zen 3+アーキテキクチャ採用のRyzen 9 6900HSの後継モデルとなる。スペックは8コア16スレッドと共通だが、アーキテクチャが一新され高いパフォーマンスを実現している。IPCの改善もあってスペック以上の性能差がある。
末尾の「S」が示す通り省電力性を重視したモデルでTDPは35Wと規定されている。ここはCore i9-13900Hなどの競合モデルと比べても優位性がある点だ。搭載ゲーミングノートPCのラインナップはそれほど多くなくASUSやRazerなどの海外勢が中心となる。モバイル向けCPUの種類が多く様々なモデルに分散されている形だ。後継モデルはRyzen 9 8945HSとなる。
当ページの目次
Ryzen 9 7940HSの概要
コードネーム | Zen 4(Phoenix) |
---|---|
プロセス | 4nm |
コア/スレッド数 | 8コア / 16スレッド |
Pコア定格/最大クロック | 4.0 GHz/ 5.2 GHz |
L2キャッシュ | 8MB |
L3キャッシュ | 16MB |
内蔵GPU | Radeon 780M |
TDP | 35W |
PL2 | 54W |
発売日 | 2023年01月04日 |
価格 | – |
特徴 | (+)高いゲーミング性能を持つ (+)TDP 35Wと省電力性が高い (-)搭載モデルのラインナップが少ない |
評価 | ・総合評価 8.0 ・ゲーム評価 8.0 |
Ryzen 9 7940HSの基本スペック
他のRyzen 9シリーズと比較
Ryzen 9 7940HS | Ryzen 9 7945HX | Ryzen 9 6900HS | |
---|---|---|---|
コードネーム | Zen 4 (Phoenix) | Zen 4 (Dragon Range) | Zen 3+ (Rembrandt) |
プロセス | 4nm | 5nm | 6nm |
トランジスタ数 | 250.0億 | 131.4億 | - |
ダイサイズ | 178 mm² | 2x 71 mm² | 208 mm² |
I/Oプロセス | - | 6nm | - |
I/Oダイサイズ | - | 122 mm² | - |
コア | 8 | 16 | 8 |
スレッド数 | 16 | 32 | 16 |
定格クロック | 4.00 GHz | 2.50 GHz | 3.30 GHz |
最大クロック | 5.20 GHz | 5.40 GHz | 4.90 GHz |
L2キャッシュ | 8MB | 16MB | 4MB |
L3キャッシュ | 16MB | 64MB | 16MB |
対応メモリ | DDR5-5600 LPDDR5-7500 | DDR5-5200 | DDR5-4800 LPDDR5-6400 |
内蔵グラフィックス | Radeon 780M | Radeon 610M | Radeon 680M |
TDP | 35W | 55W | 35W |
PL2 | 54W | 75W | 54W |
価格 | - | - | - |
発売日 | 2023/01 | 2023/02/28 | 2022/01 |
従来モデルのRyzen 9 6900HSとハイエンドモデルであるRyzen 9 7945HXと比較していく。Ryzen 9 6900HSはRyzen 9 5900HSのマイナーチェンジモデルだ。コードネームはZen 3+で6nmプロセスを採用している。ダイサイズは208m㎡だ。Ryzen 9 7940HSは4nmプロセスを採用していて微細化が進んでいることがわかる。ダイサイズも178m㎡でRyzen 9 6900HSよりも14%程度小さい。コア・スレッドは8コア16スレッドと変わっていない。
Ryzen 9 7940HSになって大きく変わったのはクロック周波数だ。定格クロックは0.70GHz(21%)高く、最大クロックも0.30GHz(6%)高くなっている。L2キャッシュは倍増で8MBだ。L3キャッシュは16MBと同じだ。メモリ周りも強化されていてDDR5-5600・LPDDR5-7500とより高クロックなメモリをサポートしている。内蔵グラフィックスもRadeon 680MからRadeon 780Mへとアップグレードされた。TDPは35WでMTPは54Wと変更なしだ。
ハイエンドのRyzen 9 7945HXを見ていく。コードネームはZen 4(Dragon Range)だ。モノリシックでは2つのダイを組み合わせたチップレット技術を採用している。CPUダイは5nmプロセスを、I/Oプロセスは6nmプロセスを採用している。トータルダイサイズは264m㎡とRyzen 9 7940HSよりも50%近く大きい。トランジスタ数はRyzen 9 7940HSの方が90%多くなっている。
Ryzen 9 7945HXは16コア32スレッドと驚異的なスペックを誇る。Ryzen 9 7940HSの倍だ。さすがフラグシップモデルといったところだろう。定格クロックはRyzen 9 7940HSの方が1.5GHz(60%)高く、最大クロックはRyzen 9 7945HXの方が0.20GHz(4%)高い。Ryzen 9 7945HXのL2キャッシュは16MBでL3キャッシュは64MBだ。Ryzen 9 7940HSと比べてそれぞれ2倍・4倍と圧倒している。
Ryzen 9 7945HXはDDR5-5200をサポートしている。内蔵グラフィックスはRadeon 610Mだ。Ryzen 9 7945HXはグラフィックボード搭載が前提となっているので内蔵グラフィックスのスペックを抑えられている。TDPは55WでRyzen 9 7940HSよりも60%程度高い。PL2も40%高く75Wだ。
Intel製CPUと比較
Ryzen 9 7940HS | Core i9-13900H | |
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コードネーム | Zen 4 (Phoenix) | Raptor Lake |
プロセス | 4nm | 10nm |
トランジスタ数 | 250.0億 | - |
ダイサイズ | 178 mm² | 257m㎡ |
トータルコア | 8 | 14 |
トータルスレッド | 16 | 20 |
コア(P) | 8 | 6 |
スレッド(P) | 16 | 12 |
コア(E) | - | 8 |
スレッド(E) | - | 8 |
定格クロック(P) | 4.0 GHz | 2.6 GHz |
最大クロック(P) | 5.2 GHz | 5.4 GHz |
定格クロック(E) | - | 1.9 GHz |
最大クロック(E) | - | 4.1 GHz |
L2キャッシュ | 8MB | 20MB |
L3キャッシュ | 16MB | 24MB |
対応メモリ | DDR5-5600 LPDDR5-7500 | DDR5-5200 LPDDR5-6400 DDR4-3200 |
内蔵グラフィックス | Radeon 780M | Iris Xe Graphics |
PBP(TDP) | 35W | 45W |
MTP | 54W | 115W |
価格 | - | $617 |
発売日 | 2023/01 | 2023/01/04 |
競合モデルであるCore i9-13900Hと比較していく。Core i9-13900HはIntel第13世代Core iシリーズ(Raptor Lake)のメインストリームにおけるフラグシップモデルだ。プロセスは10nmで、ダイサイズは257m㎡だ。ダイサイズはCore i9-13900Hの方が44%大きい。Core i9-13900Hは2つのコアを組み合わせるハイブリッドコアアーキテクチャを採用していて14コア20スレッドとスペックが高い。物理コアはRyzen 9 7940HSよりも6つ多く、スレッドも4つ多い。Ryzen 9 7940HSはすべてPコア相当のコアを持っていることになる。
Pコアの定格クロックはRyzen 9 7940HSの方が1.4GHz(54%)高く、最大クロックはCore i9-13900Hの方が0.2GHz(4%)高い。Core i9-13900HのEコアの定格クロックは1.9GHzで、最大クロックは4.1GHzだ。Pコアと比べると30%程度抑えられていることがわかる。L2キャッシュはCore i9-13900Hの方が12MB多く、L3キャッシュもCore i9-13900Hの方が8MB多い。
対応メモリを見るとCore i9-13900Hの方が幅が広いことがわかる。DDR4-3200をサポートしているのは興味深い。Core i9-13900Hは内蔵グラフィックスにIntel Iris Xe Graphicsを搭載している。PBPはCore i9-13900Hの方が10W高く45Wとなる。MTPもCore i9-13900Hの方が61W高く115Wとなる。MSRPは$617だ。Ryzen 9 7940HSのMSRPは発表されていないが同等ではないかと考えている。
Ryzen 9 7940HS搭載モデルの特徴
省電力モデルながら現行トップクラスの性能を誇る
Ryzen 9 7940HSの性能スコアは27,989とモバイル向けモデルとしてはトップクラスだ。競合モデルであるCore i9-13900Hと比べても5%弱パフォーマンスで上回っている。下位モデルのRyzen 9 7840HSとの性能差は6%前後だ。従来モデルのRyzen 9 6900HSと比べると実に63%もパフォーマンスが高い。現在Ryzen 9 6900HS搭載モデルを所有している方もRyzen 9 7940HSへの買い替えでメリットを感じられるだろう。もちろんグラフィックボードも最新モデルとなるので十分候補に入るはずだ。
Zen 3+とZen 4アーキテクチャでは中身が全く別物に仕上がっている。内蔵キャッシュの強化やIPCの改善(最大で13%)による恩恵だ。クロック周波数も高く性能アップは妥当と言える。この性能がTDP 35Wの枠組みで達成されているのが驚きだ。GeForce RTX 4070 MobileやGeForce RTX 4060 Mobileのパフォーマンスを引き出すのに十分だろう。これ以上の高みを目指すにはハイエンドのRyzen 9 7845HXやCore i7-13700HXを候補に入れる必要がある。
搭載モデルのラインナップは減少傾向にある
Ryzen 9 7940HSを搭載したゲーミングノートPCのラインナップは減少傾向にある。ゲーミングノートPCはデスクトップPC以上にCPUが分散されていて1つのCPUに固まることはない。同じRyzen 7000シリーズだけでもRyzen 9 7945HX・Ryzen 9 7845HX・Ryzen 7 7840HS・Ryzen 7 7735HS・Ryzen 5 7640HSがある。ここにIntel製CPUが加えられるのだから特定のモデルが増えるということはなさそうだ。
現在Ryzen 9 7940HS搭載モデルを販売しているのはASUSとRazerのみだ。今後もラインアップが増えることはなさそうだ。Ryzen 9 7940HSは省電力モデルとして高いパフォーマンスを持ち魅力的なモデルだ。購入検討中の方は急いだ方がよいだろう。急いでいないのであれば次世代のZen 5アーキテクチャ採用のモバイル向けモデルがリリースされるのを待つのが得策だ。
Ryzen 9 7940HSのベンチマーク一覧
Cinebench R23
Cinebench R23でのパフォーマンスを見ていく。Ryzen 9 7940HSのマルチコア性能は17,834で、シングルコア性能は1,785だ。従来モデルのRyzen 9 6900HSと比べてマルチコア性能が41%高く、シングルコア性能も11%高くなっている。同じ8コア16スレッドにも関わらずここまで性能が伸びているのは評価できる。Zen 4アーキテクチャの本領発揮だ。下位モデルのRyzen 7 7840HSと比べるとマルチコア性能が6%高く、シングルコア性能も5%高い。競合のCore i9-13900Hと比べるとマルチコア性能が5%高いが、シングルコア性能は7%低い。Pコアの数が多い分だけマルチコア性能が伸びやすいのかもしれない。
Handbrake
動画のエンコードソフトであるHandbrakeでのパフォーマンスを見ていく。数値が小さい方が高性能だ。Ryzen 9 7940HSは、競合のCore i9-13900Hと比べて5%程度パフォーマンスが高い。旧世代のRyzen 9 6900HSよりも20%弱もパフォーマンスが高くなっている。Core i9-13900HXやCore i7-13700HXなどIntelのハイエンドモデルを抑えているのは評価できる。
7-Zip(圧縮)
Zipファイルの圧縮速度をまとめている。Ryzen 9 7940HSの速度は91.4となる。旧世代のRyzen 9 6900HSと比べて36%もパフォーマンスが高くなった。Core i9-13900Hと同等の速度だ。ハイエンドのRyzen 9 7945HXと比べると20%強パフォーマンスで劣る結果となる。
7-Zip(解凍)
次にZipファイルの解凍速度を見ていく。Ryzen 9 6900HSと比べて38%もパフォーマンスが向上している。Core i9-13900Hと比べても3%程度上回っている。下位モデルのRyzen 7 7840HSとの性能差は3%弱とそれほど大きくない。
Adobe Photoshop
Photoshopでのパフォーマンスを見ていく。Ryzen 9 7940HSは、ハイエンドのRyzen 9 7945HXを抑えてトップに君臨している。Intel第13世代のハイエンドモデルも振るわずRyzen 9シリーズが強力だ。Core i9-13980HXのスコアが1,142とRyzen 9 7940HSよりも12%劣るのは気になるところだ。定期的にベンチマークを行いアップデートしていきたいと考えている。
Ryzen 9 7940HS搭載ゲーミングノートPC一覧
TUF Gaming A15 FA507XI (ASUS)
液晶:16.0インチFHD 144Hz
重量:約2.20kg
CPU:Ryzen 9 7940HS
GPU:GeForce RTX 4070 Mobile
メモリ:DDR5-4800 16GB
ストレージ:SSD 1TB Gen4 NVMe
電源:240W ACアダプター
コスパ:調査中
Ryzen 9 7940HS×GeForce RTX 4070 Mobile搭載のハイクラスのゲーミングノートPCだ。Ryzen 9 7940HSの性能を考えればGeForce RTX 4070 Mobileぐらいのグラフィックボードと組み合わせる方が活かせそうだ。16.0インチFHDディスプレイを搭載していてゲームに没頭できる。大型モニターを搭載しているのはメリットだ。本体重量は約2.2kgと16.0インチモデルとしては軽量化されている。バッテリー駆動時間は約10.4時間となる。趣味や仕事でも扱いやすいモデルだ。メモリDDR5-4800 16GB・SSD 1TB Gen4 NVMeと構成も必要十分といえる。
ROG Flow X13 GV302XV (ASUS)
319,980円 279,800円+送料3,300円
液晶:13.4インチWQXGA 165Hz
重量:約1.35kg
CPU:Ryzen 9 7940HS
GPU:GeForce RTX 4060 Mobile
メモリ:LPDDR5-6400 16GB
ストレージ:SSD 1TB Gen4 NVMe
電源:130W ACアダプター
コスパ:調査中
13.4インチWQXGAディスプレイ搭載の軽量ゲーミングノートPCだ。本体重量は約1.35kgとかなり軽い。持ち運びを前提とするなら理想的なモデルだろう。グラフィックスにはミドルクラスのGeForce RTX 4060 Mobileを搭載している。電源が130W ACアダプターであることからもわかるとおりTDPは抑えられていて性能は控えめだ。メモリLPDDR5-6400 16GBと省電力性を重視した構成だ。ストレージはSSD 1TB Gen4 NVMeを搭載している。
Razer Blade 14 RZ09-0482VJH3-R3J1(Razer)
液晶:14.0インチQHD+ 240Hz
重量:約1.84kg
CPU:Ryzen 9 7940HS
GPU:GeForce RTX 4060 Mobile
メモリ:DDR5-5600 16GB
ストレージ:SSD 1TB NVMe
電源:230W ACアダプター
コスパ:調査中
RazerブランドのゲーミングノートPCだ。14.0インチQHD+ディスプレイを搭載している。240Hz対応で滑らかなゲーム描写が実現する。グラフィックスにはGeForce RTX 4060 Mobileを搭載している。設定を調整すれば高リフレッシュレートでのゲームプレイも実現可能だ。メモリDDR5-5600 16GB・SSD 1TB NVMeと構成も平均以上となる。本体重量が約1.84kgとゲーミングノートPCとしては最軽量クラスだ。バッテリー駆動時間も長めでビジネス用途でも使いやすい。デザイン性も高くRazerファンには溜まらない。一方で、コストパフォーマンスがよいわけではないのでコスパを重視するなら他のモデルをみておくとよい。
TUF Gaming A15 FA507XV (ASUS)
239,800円 169,800円
液晶:16.0インチFHD 144Hz
重量:約2.20kg
CPU:Ryzen 9 7940HS
GPU:GeForce RTX 4060 Mobile
メモリ:DDR5-4800 16GB
ストレージ:SSD 512GB Gen4 NVMe
電源:240W ACアダプター
コスパ:調査中
ASUSが販売する高コスパゲーミングノートPCだ。キャンペーン中は70,000円OFFの169,800円で購入できる。16.0インチFHDディスプレイを搭載している。高リフレッシュレートモニター搭載で快適にゲームを楽しめる。グラフィックスにはAda Lovelace世代のミドルクラスであるGeForce RTX 4060 Mobileを搭載している。フルHDで高リフレッシュレートを実現可能だ。メモリDDR5-4800 16GB・SSD 512GB Gen4 NVMeと構成は平均的だ。本体重量は約2.2kgとなる。バッテリー駆動時間は約10.4時間だ。公式記載の駆動時間はゲームプレイを想定しているわけではない点は注意しよう。ゲームプレイだと1,2時間ぐらいの持ちと考えておくとよいだろう。