当ページでは、Ryzen 7 5800X3Dのスペックレビュー&性能ベンチマークを検証している。2022年4月20日に新しいAMD製CPUが登場した。完璧に新しいCPUというわけではない。スペック的には既存のRyzen 7 5800Xと非常に似ている。一番のポイントは、L3キャッシュ容量を32MBから96MBへと引き上げたことだ。これによって大きくゲーミング性能が向上しているというわけだ。
コアよりもL3キャッシュの方がゲームプレイに与える影響が大きい(TECHSPOT, 2021)と言われていてこのL3キャッシュ容量の増量は理にかなっている。追加の64MBのL3キャッシュはAMD 3D V-Cache Technologyと呼ばれる新しい技術によって実現した。”現行最速のゲーミング向けCPU”を謳うその実力を見ていこう。搭載モデルについては、「Ryzen 7 5800X3D搭載おすすめゲーミングPC」で紹介している。残念ながらそれほど搭載モデルが増えないままだった。癖のある性能は扱いづらさがあったのかもしれない。その後2024年2月に下位モデルであるRyzen 7 5700X3Dがリリースされた。次世代のRyzen 7000シリーズがリリースされた後に異例の旧モデル復活となった。
この3D V-Cache Technologyは、次世代のZen 4アーキテクチャ採用の「Ryzen 7000シリーズ」でも採用される可能性が高いということだ。Ryzen 9 7950X3D・Ryzen 9 7900X3D・Ryzen 7 7800X3Dなどが予定されていて2023年1月のCESで発表されるということだ。ちゃんと次に繋がる画期的な技術を開発したのは評価できる。次世代モデルは2023年3月以降順次発売された。
Ryzen 7 5800X3Dの基本情報
コードネーム | Zen 3(Vermeer) |
---|---|
プロセス | 7nm |
コア/スレッド数 | 8コア/16スレッド |
定格/最大クロック | 3.4 GHz/ 4.5 Ghz |
L3キャッシュ | 96MB |
TDP | 105W |
発売日 | 2022年04月20日 |
MSRP | $449 |
価格 | 49,800円~ |
特徴 | (+)Core i9シリーズを上回るゲーミング最強CPUの登場 (+)省電力性に優れていて扱いやすい (+)Ryzen 7 5800X登場時と同じ価格設定 (-)ゲーム以外の用途ではRyzen 7 5800Xよりも性能が劣る (-)オールラウンド性ではCore i7-12700Kに負けてしまう (-)オーバークロックには対応していない (-)搭載モデルのラインナップがほとんどない |
評価 | ・総合評価 6.5 ・ゲーム評価 8.5 |
当ページの目次
AMD 3D V-Cache Technologyとは
3D V-Cache Technologyは、日本語では3D積層技術と呼ばれる。つまり、Zen 3のCCD(8つのコアと32MBとL3キャッシュ)・L3 Die・Structual Dieの3層からなる。驚くべきことはRyzen 7 5800Xよりも層が増えているにも関わらず厚さは同じだということだ。製造プロセスの見直しによってCCDを薄くすることに成功した。これによって旧世代のマザーボードやCPUクーラーとの互換性も維持されている。
上記がAMD 3D V-Cache Technologyのイメージだ。Zen 3 CCDの上に64MBのL3 Cache Dieがあってその横にStructural siliconがある。
CCDの上にL3 Cache Dieを結合するのにハイブリッドボンディング技術が使用されている。低消費電力及び広帯域化を実現できるのだ。
Ryzen 7 5800X3Dの基本情報
Ryzen 7 5800X3D | Ryzen 7 5800X | Core i7-12700K | |
---|---|---|---|
メーカー | AMD | AMD | Intel |
コードネーム | Zen 3 | Zen 3 | Alder Lake |
プロセス | 7nm | 7nm | 10nm |
トランジスタ数 | 41.5億 | 41.5億 | - |
ダイサイズ | 81 mm² | 81 mm² | 215 mm² |
トータルコア | 8 | 8 | 12 |
トータルスレッド | 16 | 16 | 20 |
コア(P) | 8 | 8 | 8 |
スレッド(P) | 16 | 16 | 16 |
定格クロック(P) | 3.4 GHz | 3.8 GHz | 3.6 GHz |
最大クロック(P) | 4.5 GHz | 4.7 GHz | 5.0 GHz |
コア(E) | - | - | 4 |
スレッド(E) | - | - | 4 |
定格クロック(E) | - | - | 2.7 GHz |
最大クロック(E) | - | - | 3.8 GHz |
L3キャッシュ | 96MB | 32MB | 25MB |
対応メモリ | DDR4-3200 | DDR4-3200 | DDR5-4800 DDR4-3200 |
CPUクーラー | × | × | × |
内蔵GPU | × | × | UHD Graphics 770 |
PCI-Express | Gen 4 | Gen 4 | Gen 5 |
TDP | 105W | 105W | 125W |
PL2 | - | - | 190W |
MSRP | $449 | $449 | $409 |
国内価格 | 49,800円~ | 43,180円~ | 53,658円~ |
発売日 | 2022年04月20日 | 2020年11月06日 | 2021年11月04日 |
L3キャッシュ容量は3倍の96MBだ。Ryzen 7 5800X3Dのハイライトと言える部分だ。対応メモリはDDR4-3200で変わっていない。PCI-Expressも同じだ。TDPは105Wと同等だが、実際のパフォーマンスではクロック周波数が下げられている分Ryzen 7 5800Xよりも消費電力が抑えられている。Ryzen 7 5800X3Dの実売価格は49,800円で、Ryzen 7 5800Xよりも6,620円も安く購入できる。Ryzen 7 5800Xはややプレミア価格だ。
競合モデルであるCore i7-12700Kと比較していく。実売価格は53,658円~でRyzen 7 5800X3Dよりも15,000円安い。CPU内蔵グラフィックス非搭載のCore i7-12700KFであれば数千円安く購入できる。Alder Lake世代のCPUで10nmプロセスを採用している。ダイサイズは215m㎡とRyzen 7 5800X3Dよりも2.6倍だ。
Core i7-12700Kは2つのコアを搭載したハイブリッドコアアーキテクチャを採用している。8つのPコアと4つのEコアを搭載していてトータルコアは12だ。スレッド数は20(Pコアのみハイパースレッディング対応)となる。8コア16スレッドのRyzen 7 5800X3Dよりもスペックが高い。
Pコアのクロック周波数は3.6 GHz、最大クロックは5.0 GHzだ。Ryzen 7 5800X3Dのクロック周波数と比べるとそれぞれ6%・12%高い。L3キャッシュ容量は25Mbだ。Core i7-12700Kは上位規格のメモリであるDDR5-4800にも対応している。DDR4-3200のみ対応のRyzen 7 5800X3Dと比べて優位に立っている。
CPUクーラー非同梱は共通だ。Core i7-12700Kは内蔵グラフィックスを搭載している。また、PCIe ExpressはGen 5に対応していて最新モデルらしさがある。TDPは125WでPL2は190Wだ。省電力性については7nmプロセスを採用しているRyzen 7 5800X3Dが優勢だ。
Ryzen 7 5800X3Dの最新評価【2024年】
Ryzen 7 5800X3Dはすでに発売から2年の月日が流れたが、今でも高いゲーム性能を発揮するCPUだ。ゲーム性能スコアは36,384とトップクラスといえる。発売当時同価格帯だったCore i7-12700Kと比べると20%近くもゲーム性能で上回っている。現行のCore i5-14600K(51,795円)に匹敵するほどだ。49,800円で購入できるRyzen 7 5800X3Dは魅力的な選択肢となる。
2024年に登場したRyzen 7 5700X3Dは、Ryzen 7 5800X3Dよりもおよそ3%性能が低い。価格は34,010円~とRyzen 7 5800X3Dよりも15,000円も安い。コストパフォーマンスの観点からはRyzen 7 5700X3Dを選ぶのがよいだろう。マルチコア性能を重視するならCore i5-14600KやCore i5-14400辺りを選ぶのがおすすめだ。次世代のRyzen 7 7700は、45,800円~購入できる。マルチコア性能も重視するならおすすめだ。
Ryzen 7 5800X3Dの特徴&注意点【2022年】
最強のゲーミング向けCPUという謳い文句は本物だ
Ryzen 7 5800X3Dは、現行最強のゲーミングPCという謳い文句を引っ提げて登場したCPUだ。Ryzen 7 5800Xと同じZen 3アーキテクチャを採用したモデルでL3キャッシュ容量を3倍に増やした。ベンチマークを見る限りこのキャッチコピーに偽りはなくこれまで最強の座に君臨していたCore i9-12900Kを上回っている。このRyzen 7 5800X3Dの発売に合わせてIntelがリリースしたCore i9-12900KSと比べても遜色ない。当然Ryzen 9 5950XやRyzen 9 5900Xをも上回る。
L3キャッシュ容量の増やすというアイデアは斬新だ。コアを増やしたり、クロック周波数を引き上げたりするよりも効果が大きい。当然単純にL3キャッシュを増やすということはできず、技術的な苦労もあったはずだ。その解決策の一つがハイブリッドボンディング技術となっている。AMD 3D V-Cache Technology実現の要と言えるだろう。結果的にこのRyzen 7 5800X3Dが2023年最強のゲーミングCPUと見てよいだろう。
現時点でソケットAM4のマザーボードを持っているならアップグレードを検討してもよいかもしれない。注意すべき点は次世代の第4世代RyzenシリーズではソケットがAM5になるため互換性がなくなってしまう。つまり、今Ryzen 7 5800X3Dに手を出したら次世代モデルが購入しづらくなってしまうのだ。Zen 4アーキテクチャ採用のRyzen 7000シリーズ(Raphael)を待つのも悪くない。
ゲーム以外のパフォーマンスが低い
Ryzen 7 5800X3Dは最強のゲーミングCPUとして疑いの余地がない。L3キャッシュ容量を増やして、クロック周波数を引き落とすということは功を奏したように思えるが、ゲーム以外の用途では代償も大きい。要はL3キャッシュ容量を活かせない用途ではパフォーマンスが低いということだ。クロック周波数を引き下げた分だけ不利になってしまうこともある。
例えば、Cinebench R23ではRyzen 7 5800Xよりもスコアが低くなっている。他の用途でもRyzen 7 5800Xと同程度の水準に収まる。Ryzen 7 5800Xよりも価格が高いことを考えると物足りなさがある。12コア20スレッドのCore i7-12700Kにも完敗だ。価格的にはこのCore i7-12700Kよりも高く総合的に見るとコスパは低い。
Cinebenchだけではなく動画のエンコード・Adobeソフトでも劣ってしまう。AMDが好きでどうしてもAMD製CPUから選びたいという方でないと選びづらさがある。これならゲーム性能・マルチスレッド性能が高いCore i7-12700Kの方がオールラウンド性が高く扱いやすいのではないかと思う。
成熟したZen 3アーキテクチャのおかげで省電力性が高い
Ryzen 7 5800X3Dは省電力性に長けたCPUだ。7nmプロセスを採用したZen 3アーキテクチャの優れた部分だと言える。Ryzen 7 5800Xと比べても5%-15%程度消費電力が抑えられている。これはクロック周波数を落としたことによる恩恵だ。L3キャッシュに振り切ったことは省電力性の観点からでは正解だった。
競合モデルのCore i7-12700Kと比べても40%以上も消費電力が抑えられていてここがZen 3アーキテクチャの凄さだと言える。熟成されていて省電力性に関してはIntelの10nmプロセスよりも優秀だ。もちろん、ゲーミングCPUとしても優れている。
消費電力が低いということはPCケース・CPUファン・ケースファン・電源ユニットなどにコストを抑えることができる。その分グラフィックボードにお金を掛けられるということになる。もっともゲーミングPCを構築する上で消費電力を気にする方は少ないかもしれない。
搭載モデルはTSUKUMOで少し販売されているだけ
Ryzen 7 5800X3Dを搭載したモデルは希少性が高い。2023年01月時点でRyzen 7 5800X3D搭載モデルを購入できるのはTSUKUMOだけだ。元々パソコンショップセブンとTSUKUMOでしか販売されておらず多くのゲーマーの方にとって選択肢に入らなかったのではないかと思う。今は価格もある程度下がり購入しやすくなっている。
やはり、ゲーム特化型モデルということで扱いづらさがあるのかもしれない。なお、Ryzen 7 5800X3Dの販売価格は税込48,000円程度まで下がっている。競合モデルのCore i7-12700Kが56,000円程度なので、妥当な価格で落ち着いているように思う。搭載BTOパソコンでは選びづらくても単体のCPUとしては意外と悪くない選択肢と言えるかもしれない。
Ryzen 7 5800X3Dのゲームベンチマーク一覧
Far Cry 6
Hitman 3
Horizon Zero Dawn
Red Dead Redemption 2
Watch Dogs: Legion
その他アプリケーションのベンチマーク
Cinebench R23
7-Zip
Handbrake
ただし、Ryzen 7 5800Xと価格差があるためこれでは納得できないだろう。Core i7-12700Kと比べるとx264では34%低く、x265では40%低い。やはりコア/スレッド数が少ない分だけパフォーマンスが伸びづらいようだ。
Adobe Lightroom and Premiere Pro
Corona 1.3
Ryzen 7 5800X3D搭載おすすめゲーミングPC
G-GEAR GA5A-D221/B(TSUKUMO)
CPU:Ryzen 7 5800X3D *カスタマイズ
GPU:GeForce RTX 3060 Ti
メモリ:DDR4-3200 16GB
ストレージ:SSD 1TB NVMe
電源:750W 80PLUS GOLD
コスパ:調査中
Ryzen 7 5800X3D×RTX 3060 Ti搭載のハイクラスのゲーミングPCとなっている。初期構成ではCPUにRyzen 5 5600が選択されている。+44,000円でRyzen 7 5800X3Dにアップグレード可能だ。税込212,800円で購入できるのは嬉しいが、Ryzen 7 5800X3D搭載モデルならRTX 3070以上のモデルを選択したい。いくらCPU性能が高くてもそのパフォーマンスを活かしづらいからだ。メモリ16GB、SSD 1TBと構成も充実している。電源ユニットは750W GOLDを採用していて万全だ。
G-GEAR GA5A-D221/B(TSUKUMO)
CPU:Ryzen 7 5800X3D
GPU:GeForce RTX 3070 Ti
メモリ:DDR4-3200 16GB
ストレージ:SSD 1TB NVMe
電源:750W 80PLUS GOLD
コスパ:6.9
初期構成ではRyzen 7 5800X3D×RTX 3070 Tiの組み合わせを持つゲーミングPCだ。期間限定セールの対象モデルでお得に購入できる。ミドルタワーケースを採用している。より高いゲーミング性能を得たい方向けだ。Ryzen 7 5800X3D搭載モデルの中でも安い部類に入る。グラフィックスにRTX 3070 Tiを搭載していることで高解像度でのゲームプレイにも対応可能だ。メモリ16GB、SSD 1TBと構成も平均以上だ。電源ユニットは750W 80PLUS GOLDを採用している。
ZEFT R36X3D(セブン)
CPU:Ryzen 7 5800X3D
GPU:GeForce RTX 3070 Ti
メモリ:DDR4-3200 16GB
ストレージ:SSD 1TB NVMe
電源:850W 80PLUS GOLD
コスパ:調査中
Fractal Design Torrent Compact RGB TGを採用したゲーミングPCとなっている。コンパクトなケースながらエアフローがしっかりと考えられてハイクラスのモデルでも安心して使用できる。RGBを採用したファンがオシャレだ。Ryzen 7 5800X3D×RTX 3070 Ti搭載のハイクラスの一台でWQHD環境でのゲームプレイに適している。フルHDで高リフレッシュレートを目指すのもよい。メモリ16GB、SSD 1TBと構成も抜群だ。電源ユニットは850W GOLDを採用している。光学ドライブ及び無線LANが標準搭載だ。ゲーム特化型マシーンとして見れば評価は高い。
ZEFT G38ACVRC(セブン)
CPU:Ryzen 7 5800X3D
GPU:GeForce RTX 3080
メモリ:DDR4-3200 32GB
ストレージ:SSD 500GB NVMe
電源:850W 80PLUS GOLD
コスパ:調査中
PCケースにCooler Master製「SILENCIO S600」が採用されている。静音性を重視したミドルタワーケースだ。SD&MMCカード対応リーダー付きで利便性が高い。Ryzen 7 5800X3D×RTX 3080搭載のハイエンドクラスのゲーミングPCとなっている。4K環境でのゲームプレイが視野に入る。最高峰のゲーミングPCだと言えるだろう。メモリ32GB、SSD 500GBと構成も抜群だ。電源ユニットは850W GOLDを採用している。
参照外部サイト
- 「Ryzen 7 5800X3D」を試す – 比較対象はi9-12900KとR7 5800X、速度と電力に特徴(マイナビニュース, 2022)
- AMD Ryzen 7 5800X3D Review(PCMAG, 2022)
- How CPU Cores & Cache Impact Gaming Performance(TECHSPOT, 2021)
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